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大阪高等裁判所 昭和31年(く)56号 決定

本籍 京都府○○郡○○○○村字○○○○三番地

住居 福知山市○町○○番地(○○○学園在園中)

少年 土工 河太郎こと竹田川太郎(仮名) 昭和十五年一月九日生

抗告人 少年

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、抗告人は芦田某(年齢三十二、三歳位)に誘われ、いやいや悪い事をしたのであつて、金も同人が持つて居り、抗告人の使つたのは僅かであり、抗告人が家庭裁判所に送致されたのは、ナイフ、ズック靴、銅線少々を窃取したのと他人の口中に軽い怪我をさせたこと丈けであり、こんなこと位で試験観察の上(しかも抗告人は何日試験観察になつたのか知らない)抗告人を本件保護処分に付したのは不当であるばかりではなく、共犯者Aは自分より悪く、家庭裁判所に送致されたことも二度であるのに、保護観察に付せられたのに過ぎないし、又他に試験観察だけで済まされたものも沢山あり、しかも少年院に送致されても果して真面目になれるものか何うか疑問であるのに、抗告人のみを少年院送致の処分をしたのは不当であるというのである。

よつて案ずるに、そもそも少年に対する保護処分なるものは、少年の健全な育成を目的とするものであるから、非行のある少年を個別的に観察し、各その資質、性格、年齢及び環境等に適応した措置を講ずべきであり、従つて、たとえ同種の非行を犯した者、更に又共犯者の間にあつても各その資質、性格、年齢及び環境等の差によつて、その措置を異にし、一は保護観察に付し、他は教護院、養護施設又は少年院に送致し、或は何等保護処分に付しない等の差別の生ずることのあるのはむしろ当然のことであつて、これを不当とすることはできない。

なお少年院は非行少年に矯正教育を授ける施設であり、専門の職員が鋭意その任に当つているとはいうものの、その効果の挙がるか否かは、その少年自身の心掛け如何によるところもまた大であること言を俟たないところであるのに、少年自らが最初からその効果に疑問を抱くことは全く不当といわなければならない。

今本件干係記録を調査するに、抗告人は(一) 昭和三〇年九月七日Mに対し些細の事から治療三日間の傷害を加え、(二) 同年一二月頃HこととT共謀の上電線窃盗を、(三) 昭和三一年八月中三回にわたり、A及びCと共謀の上賽銭又は鋼板等の窃盗を、(四) 同月中Cと共謀の上鋼板窃盗を、(五) 同月中三回にわたり芦田某と共謀の上鋼板窃盗を犯したものであつて、これ等の非行によつて、昭和三一年一〇月一三日本件の少年院送致決定を受けたものであることを認めるに足る。従つて抗告人の本件非行は芦田某との共犯にかかるものだけでも、又はAとの共犯にかゝるものだけでもなく、右のように或は芦田某と両名にて、或はA外一名との三名にて、更に又同人等とは別にTと共に又はCと共にもそれぞれ窃盗の非行を犯しているほか、単独で傷害の非行をも敢てしているのであつて、しかも右大部分即ち前記(三)ないし(五)の非行は抗告人が(一)及び(二)の非行により昭和三一年三月二九日京都家庭裁判所舞鶴支部において、試験観察決定のなされた後に重ねて敢行されたものであることが認められるので、このような情状並びに本件非行の態様及び回数等から見て必ずしもこれを軽微なものということができない。(尤も抗告人は右試験観察に付せられたことを知らなかつたと弁解しているが抗告人はこれより先にも巳に数度保護処分に付せられており、前記(一)及び(二)の非行の際にも、その都度検挙され警察、検察庁で取調べを受けた上家庭裁判所に送致せられていることが記録上明かであるので右試験観察に付せられた事実を知ると否とはさして情状に影響を及ぼさないものと考えられる。)

以上のような抗告人の非行歴及び処遇歴並びに本件干係記録に現われた抗告人の性格、環境、その他諸般の情況を考慮するときは原決定が抗告人を少年院に送致する旨の処分をしたのは相当であつて、これを不当な処分であるということはできない。

よつて本件抗告は理由がないので、少年法第三三条第一項及び少年審判規則第五〇条により、これを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 万歳規矩楼 判事 山本武 判事 小川武夫)

別紙(原審の保護処分決定)

少年 竹田河太郎こと竹田川太郎(仮名)昭和一五年一月九日生

職業 土工

本籍 京都府○○郡○○○○村字○○○○三番地

住居 福知山市○町○○番地

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

一、罪となるべき事実

少年は、

一、昭和三〇年九月七日、福知山市○町○○番地O方において、M(当一五年)と些細なことから口論し、憤激の余り、手で同人の顔面を殴打し、よつて同人に治療約三日を要する両頬部打撲傷、口腔内裂傷の傷害を与え、

二、HことTと共謀の上、同年一二月頃、同市中の一〇〇番地の二元郡是寮舎において、同寮階下天井に架設してあつた福知山建設業協会所有の電線約四〇〇匁(時価一、〇〇〇円相当)を窃取し、

三、A、Cと共謀の上、

(一) 昭和三一年八月二二日頃、同市堀二、二四九番地一宮神社において、同神社所有の屋根銅板約二貫匁(時価二、〇九〇円相当)を窃取し、

(二) 同月下旬、同市岡く上聖テレジア幼稚園福知山分校において、同校所有の銅製樋約四〇〇匁(時価三五〇円相当)を窃取し、

(三) 同月三一日頃、同市西中二三八番地御霊神社において、同神社所有の賽銭約二七〇円を窃取し、

四、Cと共謀の上、同月二六日頃綾部市西神宮寺千手院において、同院所有の屋根銅板約一貫一〇〇匁(時価一、五八〇円相当)を窃取し、

五、芦田某と共謀の上、

(一) 同月二三日頃、前記一宮神社において、同神社所有の屋根銅板約五〇〇匁(時価五八〇円相当)を窃取し、

(二) 同月二四日頃、前記千手院において、同院所有の屋根銅板約一貫匁(時価一、二〇〇円相当)を窃取し、

(三) 同月下旬、福知山市字石原貴船神社において、同神社所有の屋根銅板約一貫二〇〇匁(時価一、四〇〇円相当)を窃取し、

たものである。

二、適条

一、の事実刑法第二〇四条

二、乃至五の事実同法第二三五条第六〇条

三、なお、当裁判所昭和三一年少第二、〇三七号窃盗保護事件の司法警察員作成少年事件送致書記載犯罪事実のうち二、の事実は証拠不充分であるので認定しない。

四、主な問題点

(一) 少年は、智能は準正常であるが、情意不安定で、自己統制力が充分でなく、持続性並びに社会的適応性に乏しい。

(二) 少年は昭和二五年一二月一八日教護院である京都府立○○学校に収容されたが、屡々逃走したので、京都家庭裁判所舞鶴支部の決定により、強制措置として昭和二六年五月一〇日大阪府立○○学院に送致され、習二七年三月二二日帰宅したものであるが、その後窃盗保護事件で昭和三〇年六月二四日同支部において保護観察処分をうけ、更に本件一、二の非行により昭和三一年三月二九日同支部において試験観察に付せられたのに拘らず、なお非行を重ねたもので、このまま放置すれば再犯の虞は極めて濃厚である。

(三) 少年の家庭をみると、両親の折合悪く実父は昭和二五年頃妻子を残し家出し、爾来両親別居のまま現在に至り融和協調を望めない状態であり、実母は放任的で保護能力に欠け、他に少年を補導するのに適切なところはなく、且つ本件非行が、上記の如く、保護観察乃至試験観察中の再犯であることを斟酌するときは、在宅による矯正教育は期待できない。

五、処遇

以上、少年の性格、非行歴、環境、本件非行の態様その他諸設の事情を考慮すれば、少年を中等少年院に送致して、規律ある生活のもとに教育を施し、もつてその健全な育成を期するのが相当と認められる。

よつて少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条、少年院法第二条に基き主文のとおり決定する。

(昭和三一年一〇月一三日京都家庭裁判所裁判官 林修)

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